「勝手に戻ろうとする力」との戦いがそこにはある
十年前、40歳くらいの頃に、会社が、「誰でも参加O K」と用意してくれた講義があった。
講義タイトルは忘れてしまったが、「変われることが大切」という主旨だったかと。
土曜日ということもあり、同じ年代の社員が150人くらいは聴きに来ていた。
講師が、始まってすぐ、おもむろに「この講演にあたり、みなさんに、準備をしてもらいたいことがあります」と言って、
・時計を外してください
・ベルトをされている方は、少し、緩めてください。
・長袖を着ている方は、袖をこうやって、私と同じように肘下くらいまで腕捲りしてください
を指示して深くを言わないままに、「それでは始めていきます」と講義を始めた。
講義も終盤に差し掛かり、起承転結の「結」の部分だとみんなも分かり出すと、多くの人が、「なんだ、先生、さっき言ってた、このことを、自分自身で、忘れちゃってんじゃないのかな。一切、触れずに終わろうとしているし」と思いだし、講義終了メド時刻の10分前くらいから、めいめい、時計を腕に回しはじめ、袖を伸ばしはじめ、ベルトを締めだしはじめ、残り5分のところで、会場の8割が帰り支度万端になったところで先生が言う。
「今日の講義で言いたかったこと。それは、講義で、変われることの難しさは、今、みなさんの心の中にあります。誰も元に戻してくださいと言ってはいませんが、大半の方が、それを、『ご自分ご自身の判断で』、元に戻されています。これだけ、変える、変わるということは難しいということです。人間、『変わった状況下』では、慣れず、心地も良くなく、元に戻ろうとします」
「このことは、あらゆることに共通して言えます。今のような格好のことだけでなく、会社の方針や、社会の構造まで。新しいこと、変わったことには、慣れられないんです。だから、すぐに、納まりの良い、元に戻ろうとします。これが人であれば、新しいことをしようとすると、旧態依然のことに慣れて面倒なことを強いられるのではないかと不安に思う人達が徒党を組んで、元のままでいようとします。それが、時代に相応しくない、時代に取り残されていることであったとしても」。
「みなさんが、これから、変革を起こそうとする場面があれば、こうしたことを覚悟して、一回の発言、行動に止まらず、何度も、繰り返し、繰り返し、事を起こしていく必要があります」と締め括られた。他に幾つも講義を受けたが、強烈に印象に残った、この講義のこの場面だけはしっかり覚えている。
私たちは、後ろ向きで、「歩くエスカレーター」に乗っている
よく、「現状維持で」という言葉を聞く。「止(とど)まる」ということは、「stay」ではない。
非・意識的に「後退」している。私たちは、後ろ向きで「歩くエスカレーター」に乗っている。
止まれば、後ろに持っていかれる。もし、前進(gain)したいのなら、「歩くエスカレーター」以上の速度で前進しなければならない。
前進スピードがそれ以下なら、徐々に下がっていくし、止まっていれば、「歩くエスカレーター」の速度で、後ろに遅れを取っていく。
今や、中国や新興国では、そもそも歩く速度が日本の3倍。
更には、「前向きで」歩くエスカレーターに乗っており、たとえ、止まっていても、前に進んでいく仕組みだ。流れている”時代”そのものが、前向きに進んでいる。
私たちが、周回遅れの「IT後進国」になっているのも、この構図からだ。
メールを使わず、ファクシミリを使う。ついには、ファクシミリさえも、誤送信を恐れて、敬遠され、「足で届ける」「数日かかっても郵便で送る」というとてつもなく辛抱強い国民になった。
同時に、「変われない民族」の称号を手にした。その成果は以下の表に表れている。
精神論、「出る杭は打たれる」ではなく「出る杭は好かれる」から行こう。
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